まーさ
出産方法にはいろんな種類がありますが、経腟分娩の中で分娩中に母体や胎児にリスクが生じると医療器具を使って分娩する方法がいくつかあります。
たとえば「
- 鉗子分娩とか吸引分娩ってどういうときにするものなの?
- 頭が変形するって聞いたんだけど大丈夫かな……。
- 脳性麻痺になるからしない方がいいっていう人もいるみたい。
リスクを避けるための方法なのにリスクがあるかもと聞くと不安が増しますが、まず鉗子分娩と吸引分娩について正しく知ることが大切です。
この記事を読んで鉗子分娩と吸引分娩の知識をつけて、リスクと向き合ってください。
目次
鉗子分娩・吸引分娩とは
まーさ
鉗子分娩とは
鉗子分娩とは分娩が進まずリスクがある場合の緊急手段として、鉗子(ハサミ型のクリップ)をで胎児の頭を挟み、いきみに合わせて引っ張って分娩補助を行う方法です。
鉗子分娩は分娩時の胎児の状態によって、児頭を引っ張る「ネーゲレ鉗子」、胎児の回旋を助ける「キーラン鉗子」の使い分けが必要です。
鉗子分娩は吸引分娩に比べて索引力が強く、骨盤位や顔位でも対応できる利点がありますが日本ではあまり行われません。
その理由は鉗子分娩の技術が難しく、吸引分娩よりも膣口を広げる必要があるので会陰裂傷や産道の損傷を起こしたり、鉗子で挟んだ児頭を傷つける可能性があるからです。
吸引分娩とは
吸引分娩とは赤ちゃんが子宮頚部まで降りた状態で、リスクがある場合の緊急手段として吸引器具を用いて、胎児を吸引補助しながら分娩をする以下の図の方法です。
吸引カップを児頭につけていきみに合わせて吸引しますが、強制的に吸引するので柔らかい赤ちゃんの頭は赤くなったり、頭の形が一時的に変形することがあります。
イシコメの調査によると、産婦人科医の98%が吸引分娩を経験するそうです。
鉗子分娩・吸引分娩を行う理由
まーさ
鉗子分娩・吸引分娩を行うのは、その分娩が以下の理由がある異常分娩だからです。
児頭が大きく産道を通りにくい
胎児の頭が大きく産道の途中で引っかかったり、膣口から胎児がなかなか取り出せない場合に鉗子分娩・吸引分娩を行います。
肩甲が引っかかり産道を通りにくい
肩甲難産(産道内で上半身が引っかかり出産しづらい状態)の胎児も、鉗子分娩・吸引分娩を行う理由になります。ただし旋回異常が起こり、肩甲難産になる場合もあります。
肩甲難産の危険因子のひとつとして吸引・鉗子分娩が挙げられている.とくに中在からの吸引・鉗子分娩での頻度が多く,吸引分娩ではより頻度が上昇するとされている.
6)巨大児の取り扱いについて|日産婦誌60巻9号|日本産科婦人科学会
臍帯巻絡など臍帯異常が起きている
胎児のへその緒が身体に巻き付いていたり、産道で圧迫されるなどの臍帯異常が起こると、酸素や栄養素が遮断される可能性があるので素早く取り出さなければいけません。
産道を通る向きや回旋がおかしい
胎児は狭い産道を降りる際、身体を捻って回旋しながら娩出されます。ところが回旋に問題があると胎児が出て来れないので、鉗子や吸引器を使って誘導する必要があります。
新生児仮死状態にある
分娩の最中に胎児がぐったりしている、脈拍が少ない・止まっているなどがわかった場合は、速やかに鉗子分娩・吸引分娩を行います。
母体に異常がある
難産によって母体の体力低下が著しい場合や大量の出血がある場合は鉗子分娩・吸引分娩を行います。
鉗子分娩・吸引分娩ができない条件
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鉗子分娩は母体や胎児にリスクが生じていても、利用条件や環境によって行えない場合があります。
吸引・鉗子分娩について – 日本産科婦人科学会
児頭骨盤不均衡の場合
母体の骨盤に比べて胎児の頭が大きいなど、骨盤と胎児の大きさが不均衡(
巨大児の場合
胎児の体重が4000g以上の巨大児の場合も相対的に頭が大きく、母体の骨盤に胎児が通らないことが予想されるため鉗子分娩・吸引分娩ができない場合があります。
水頭症の場合
母体が狭骨盤の場合
母体の骨盤が異常に狭いと認められる場合(
横位や臀位などの場合
胎児が骨盤位や顔位、横位、臀位などの場合は、鉗子分娩・吸引分娩ができない場合があります。
鉗子分娩・吸引分娩の影響・リスク
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母体への影響
胎児を吸引器具や鉗子で引っ張ることで、母体には頸管裂傷や膣壁裂傷などの傷がついて出血する可能性があります。
- 会陰裂傷
- 膣壁裂傷
- 子宮頸管裂傷
- 尿道・膀胱裂傷
- 上記裂傷による失血リスク
また鉗子分娩・吸引分娩は膣に器具を挿入するので、会陰切開などを行って施術しやすくする必要があります。
胎児への影響
鉗子分娩によって胎児が受ける影響は、以下の症状が考えられます。
- 圧迫による頭蓋変形・骨折
頭蓋内出血 産瘤 頭血腫 帽状腱膜下出血 黄疸
鉗子分娩・吸引分で頭の形が変わったりコブ(頭血腫)ができても、時間が経てばほとんどが自然に消えて元通りになるので、過剰に心配する必要はありません。
頭部の圧迫で赤血球が破壊されて黄疸が起こることもありますが、こちらも元に戻ります。新生児に出る黄疸の症状は以下を参考にしてください。
鉗子分娩・吸引分娩による後遺症・障害
まーさ
鉗子分娩・吸引分娩で怖いのは頭蓋内出血で皮下血腫や脳浮腫などを起こし、脳性麻痺などの後遺症や発達障害につながる可能性があることです。
脳性麻痺とは胎児から生後4週までの間に「脳形成異常」「脳出血」など脳に損傷を受けることで、脳の運動機能が損なわれる病気を言います。
日本産婦人科医会が発表した出産時の脳性麻痺症例は以下の内訳です。これを見ると吸引分娩が鉗子分娩の10倍の症例がありますね。
また鉗子分娩・吸引分娩でできた頭蓋内出血が、揺さぶられっ子症候群と同様の症状に至る可能性もあるとされているので、それなりの認識をしておく必要があります。
揺さぶられっ子症候群の詳細は以下を参考にしてください。
鉗子分娩・吸引分娩のまとめ
分娩方法と脳性麻痺の因果関係はわかりません。そもそも帝王切開、鉗子分娩・吸引分娩を行うのは、胎児や母体に異常分娩の要素があるからです。
また単純に吸引分娩の方が鉗子分娩よりリスクが高いわけじゃなく、そもそも日本では吸引分娩の症例が圧倒的に多いという要因も考えられます。
医療の発達で以前より後遺症・障害リスクは大幅に減ってますが、心配なら妊婦健診時に医師に吸引分娩と鉗子分娩について詳しく聞いてみましょう。
ただどちらにしても緊急帝王切開よりは緊急性が低い急速遂娩術なので、リスクが少ない方を選択した結果として後遺症・障害リスクが排除できないことは心に留めてください。