赤ちゃんの分娩には以下の5つの流れがあります。
- 分娩の前兆
前駆陣痛から陣痛発来(ジンパツ)まで - 分娩第1期(開口期)
分娩開始から子宮口全開大まで - 分娩第2期(娩出期)
子宮口全開大から胎児の娩出まで - 分娩第3期(後産期)
胎児の娩出から子宮内容物が娩出されるまで - 産褥期
産後の体が回復するまで
胎児はこの分娩の流れの中で身体を回転させながら娩出されます。産道を通過する際の回転行為を「胎児の
胎児の回旋は大切な行為です。回旋できない場合は遷延分娩(初産婦で分娩に30時間以上、経産婦で15時間以上要すること)になる可能性があり、母子にリスクがあります。
今回は産道を通過する際の胎児の回旋と回旋異常が起こる原因、回旋異常の際の対処法についてお話します。
目次
胎児の回旋とは
まーさ
胎児の回旋とは、経膣分娩で胎児が回旋しながら娩出されることです。胎児は屈曲した産道や狭い骨盤を通るときに、スムーズに産道を通れるように4段階の回旋を行います。
と言っても胎児が身体をぐるぐる4回転させるわけじゃないです。回旋しながら娩出される流れの中に4つの段階があるということです。
引っ越しで狭い階段や通路を通るときに、大きな荷物の向きを何度か変えて傷をつけずにうまく部屋に運び入れる……そんなイメージに似てますね。
第1回旋|横軸回旋(胎勢回旋)
陣痛が始まると、胎児は子宮収縮により骨盤腔内に下降します。その際胎児の背中は外側に向いてますが、骨盤内に下降したときに少しだけ横を向いて頭が骨盤内にはまります。
体の中で一番大きな頭は、骨盤腔にピッタリはまる様に下降しなければ通れません。
骨盤にはまった児頭(胎児の頭)は狭い骨盤の入口を通ろうとするため、自然と顎を引き、屈曲した姿勢(頭位)を取ります。ここまでを胎児の「第1回旋」と言います。
第2回旋|縦軸回旋(胎向回旋)
子宮収縮によって胎児が産道を下降し始めると胎児の頭は最初は横向きで産道に入り、次は顎を引いたまま頭と身体を回転させて身体を骨盤に通そうとします。
これを胎児の「第2回旋」と言います。
第3回旋|横軸回旋(胎勢回旋)
第1回旋で母体の右を向いていた胎児の顔は、産道を通ることで45度回転して顔が母体の背中側を向きます。母体が仰向けで寝ているなら、胎児はうつ伏せで娩出されます。
その際、胎児の後頭部は母体の恥骨の下(結合下縁)で固定されます。胎児が回転しきって下を向くまでを胎児の「第3回旋」と言います。
子宮収縮で児頭が見え隠れを繰り返す状態を
第4回旋|縦軸回旋(胎向回旋)
胎児は後頭部を支点に頭をのけぞらせる反屈位をとり、前頭部、顔、顎という順番でに外に出ます。
両肩は一度に娩出できないので、頭の娩出後はまた横向きに戻り片方ずつ肩を娩出しやすい体勢にします。これを胎児の「第4回旋」と言います。
両肩が出れば身体は簡単に娩出されます。回旋の流れは以下の動画が分かりやすいです。
回旋異常に繋がる分娩前の胎児の姿勢
まーさ
難産になる原因の1つは胎児の回旋異常です。胎児の姿勢に不備があると、回旋異常が起こります。
日産婦誌60巻3号|10.異常分娩の管理と処置|日本産科婦人科学会
反屈位
胎児は第1回旋において背中を少し丸めて顎を引き、軽い腕組みとあぐらを組んだ姿勢をとり、骨盤腔に後頭部から先進します。
第1回旋の異常になる
新看護学14 母子看護156P|医学書院
前頭位(前頂位)
前頭位(前頂位)は第1回旋の児頭の前方屈曲が行われず、胎児の前頭部にある
前頭位は母子のリスクが見られない限り時間をかけて分娩しますが、頭によって産道の通過面が大きくなるので産道裂傷、胎児機能不全(胎児ジストレス)などが増します。
額位
顎が上がった状態なので産道の抵抗は強く、分娩の進行とともに反屈が増して顔位になることもあります。
通常、分娩時に額位と診断できれば緊急帝王切開に切り替えますが診断は難しく、第三回旋に入るとそのまま経腟分娩になり、母体裂傷、胎児傷害の可能性が増します。
顔位
触診、エコー、骨盤レントゲン撮影などで顔位とわかったら、胎児機能不全の確率が10倍に増加または新生児死亡の原因になるため、帝王切開の切り替えが検討されます。
後方後頭位
後方後頭位で分娩が進むと、うつ伏せで産まれる胎児が仰向けに産まれます。後方後頭位の割合は5%以下ですが、約70%は前方後頭位に変わり、一部は
その際まれに額位で先進しますが、娩出まで後方後頭位の割合は全分娩の0.5%程度です。
後方後頭位で分娩が進むと児頭が骨盤腔に固定しないため早期破水が起こりやすく、続発性微弱陣痛になりやすいので遷延分娩の恐れがあります。
後方後頭位が確認された場合は、胎児の後頭が下になるように母体は横向きに寝ている
また児頭骨盤不均衡が確認された場合は、子宮口が全開していれば吸引分娩、全開前なら帝王切開などを医師が判断しながら対処します。
定位異常
高在縦定位
陣痛が始まっても児頭が下降しない場合は、触診、エコー、骨盤レントゲン撮影を行った上で緊急帝王切開に移行する場合があります。
低在横定位
低在横定位が確認された場合は、胎児の後頭が下になるように母体が側臥位になり分娩を継続します。それでも分娩が進行しない場合は、吸引分娩・鉗子分娩を行います。
進入異常
進入異常は、児頭が骨盤内に進入する際に前後どちらかに傾いて進入することです。
通常、児頭が骨盤内に進入する際は、頭部の
児頭骨盤不均衡が弱い場合は経腟分娩を継続、強い場合は緊急帝王切開に切り替えます。
前頭頂骨進入(前在頭頂骨進入)
前頭頂骨進入は、胎児の矢状縫合が骨盤誘導線よりも
後頭頂骨進入(後在頭頂骨進入)
後頭頂骨進入は、胎児の矢状縫合が骨盤誘導線よりも恥骨側に傾いて分娩が進行することです。
過剰回旋
過剰回旋は、胎児の第2回旋が過剰に起こった状態です。ただほとんどの過剰回旋は一過性で、とくに治療や緊急対応の可能性は少ないそうです。
回旋異常が起こる確率と原因
まーさ
回旋異常が起こる確率
回旋異常が起こりやすいのは第一回旋と第二回旋が多く、第一回旋の際の反屈位、第二回旋の際の
プレママタウンによると回旋異常の経験割合は8.6%だそうです(有効回答数1711名)。自然分娩に挑むママの12人に1人が回旋異常を経験するということですね。
回旋異常が起こる原因
回旋異常は偶発的に起こる場合もあれば、病気など原因が明確な場合もあります。以下に一例を挙げます。
胎盤の異常
胎盤がうまく形成されないと前置胎盤や低置胎盤などで胎盤が骨盤の入口を塞いでしまい、回旋異常が起こる場合があります。
子宮の異常
子宮の形成異常や子宮筋腫、子宮腺筋症で子宮の形が変わってしまうと、回旋異常が起こる場合があります。
骨盤の異常
狭骨盤や骨盤内腫瘍によって胎児が骨盤に入りにくいため、回旋異常が起こる場合があります。
母体の体型
母体に多くの内臓脂肪がある場合、産道が圧迫されて回旋異常が起こる場合があります。
胎児の発達
巨大児は頭や肩幅が大きく回旋しにくいため、回旋異常が起こる場合があります。また低体重児は骨盤で遊びができてしまい、回旋異常が起こる場合があります。
児頭骨盤不均衡
胎児の頭が大きい場合や水頭症で児頭骨盤不均衡が起きてしまい、回旋異常が起こる場合があります。
多胎妊娠
多胎妊娠は回旋異常が起こりやすく、難産になる可能性も高いため帝王切開による出産が一般的です。
胎児の奇形
奇形によって身体の形が変わってしまった場合も、回旋異常が起こりやすい状態です。
羊水の量
羊水量が多いと胎児が動けるスペースが大きくなり、頭位の体勢を取れずに回旋異常を起こしやすくなります。また羊水量が少ない場合も十分に動くことができないため、回旋異常が起こります。
回旋異常が起こったときの分娩・対処法
まーさ
回旋異常が起こった場合は、第一回旋か第二回旋かで分娩時の対応が変わります。
第二回旋で回旋異常が起こった場合は胎児の体勢を変えるなどを試みて、対処が難しければ子宮収縮を促す陣痛促進剤を投与し、胎児の姿勢を変えるために時間をかけます。
また鉗子を使って正しい回旋を促したり、吸引分娩で回旋の向きを変えて胎児を引っ張り出すこともあります。
分娩時間が長時間に及んだり、これ以上経腟分娩を続けることが難しい場合は緊急帝王切開に切り替えて分娩を行います。
一方、第一回旋で回旋異常が起こった場合は、第二回旋より処置が難しいので、早めに鉗子分娩・吸引分娩を検討したり、緊急帝王切開に切り替えます。
以下もプレママタウンの調査ですが、回旋異常で受けた対処方法は以下の通りです。
- 陣痛促進剤を投与された|29.8%
- 鉗子分娩になった|5.1%
- 吸引分娩になった|34.3%
- 帝王切開になった|32.6%
- わからない|2.2%
- とくに何もされなかった|16.9%
調査結果を見てわかる通り、回旋異常経験者の3人に1人が分娩途中で緊急帝王切開になっています。それだけ回旋異常が分娩に及ぼす影響が大きいということですね。
回旋異常を防ぐことは可能?
まーさ
回旋以上は原因が明確な場合もあれば、偶発的に起こる場合もあるので、完全に予防することは不可能です。
母体が子宮に病気を持っていたり、胎児が巨大児・低体重児の恐れがあるとわかっていれば医師が回旋異常に注意して分娩することはできますが、これも予防とは言えません。
回旋異常の確率を減らすには、回旋異常につながる可能性を少しでも低くする心がけが大切です。
そのためには巨大児・低体重児にならない生活習慣、骨盤矯正などによる骨盤の歪みのケア、内臓脂肪がつかない食習慣や運動など妊娠期間にできることはあります。
助産院で回旋異常が起こると、妊婦を四つん這いにするそうです。そのため妊娠中に定期的に四つん這いになることで、胎児の背中が妊婦のおなか側に向きやすくなります。
効果は医師や助産師に聞いて欲しいんですが、苦しい出産を避けるため、元気な赤ちゃんを産むためにはやれるだけのことはやっておきたいですよね。
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