出産・分娩・お産はどれも赤ちゃんが産まれる過程や行為を表す言葉なので、同じ意味で使えます。ただお産や出産は一般的に使われる用語で、分娩は医学用語です。
そのため、一般的でリスクが少ない出産の流れを「
ただ分娩が医学用語でも、妊婦が何も認識しなくても良いわけではありません。
妊婦が出産を経験するにあたり、破水や陣痛など分娩の流れについてある程度認識しておくことで、より安心感を持って出産に臨むことができるようになります。
そこで今回は、正常分娩・異常分娩とはどのようなことを言うのか、また、正常分娩の流れについてお話したいと思います。
目次
正常分娩とは
正常分娩とは、妊娠37週から妊娠41週までの正産期に薬剤を使わずに本陣痛が起こり、医療による介助なく赤ちゃんや子宮内容物を経腟分娩で娩出することです。
正常分娩と自然分娩は少し意味が違います。自然分娩は「妊娠の経過が順調で自然に陣痛が来て分娩に入り、妊婦が自力で経腟分娩を行うこと」なので早産や過期産も含みます。
また、正常分娩は自然な流れで経腟分娩を行うことのため、出産リスクを回避するためではなく安全な分娩のために行った医療介助(陣痛促進剤や陣痛抑制剤、また、吸引分娩や鉗子分娩など)は、程度によって医師が正常分娩だと捉えることもあります。
正常分娩は、出産の良し悪しを言い表すものではないため、このように判断基準が曖昧になる可能性があります。
正常分娩の流れ
正常分娩はまず分娩の前兆があり、分娩の3つの期間「分娩第1期(開口期)」「分娩第2期(娩出期)」「分娩第3期(後産期)」を経て、産褥期に入ることを言います。
- 分娩第1期(開口期)……分娩開始から子宮口全開大まで
- 分娩第2期(娩出期)……子宮口全開大から胎児娩出まで
- 分娩第3期(後産期)……胎児娩出から子宮内容物娩出まで
分娩の前兆
分娩の前兆とは子宮の収縮が始まること(陣痛)です。分娩の3-5週間前から1時間に2-3回の陣痛が起こるようになり、徐々に子宮頚部が柔らかくなっていきます(頚管熟化)。
この時期に起きる陣痛を「前駆陣痛(偽陣痛)」と言い、前駆陣痛が起こってもすぐに分娩ができるわけではありません。
陣痛によって子宮底は下降し、胎児が骨盤内に移動することで胎動が減少します。この時期、骨盤内に移動した胎児が母体の膀胱を圧迫することで、妊婦は頻尿傾向になります。
分娩第1期(開口期)
分娩開始から子宮口が全開大(子宮口が10cm程度に開く)になるまでを「分娩第1期(開口期)」と言います。
妊娠37週を過ぎるころには前駆陣痛の頻度が増し、10分周期で定期的な陣痛が起こった場合(または1時間に6回以上の陣痛が起こった場合)、分娩が行なわれるまで陣痛が止むことはなくなります。
これを「陣痛発来(本陣痛)」と言い、この本陣痛の開始が分娩の開始とされています。その後、連続した子宮収縮によって胎児の頭が子宮口を押しわけて、徐々に子宮口が開き、子宮口が全開大になります。
また、この間に胎児は「第1回旋」と「第2回旋」を行います。
分娩第2期(娩出期)
子宮口が全開大してから、胎児が娩出されるまでを「分娩第2期(娩出期)」と言います。
胎胞の卵膜が破れて破水すると胎児はさらに下降し、第1回旋と第2回旋を行うと、膣口から胎児の頭頂部が見え隠れする
このとき会陰裂傷や肛門裂傷が起こらないように分娩介助を行い、医師の判断で会陰切開を行うこともあります。
胎児が「第3回旋」を行い、頭が見えたまま戻らない
分娩第3期(後産期)
胎児が娩出されたのち、子宮が自然に収縮する陣痛とともに胎盤など子宮内容物が娩出される
陣痛による後産は、出産の10-20分前後に起こり、これは「
胎盤などが自然に娩出されるのは、胎児が娩出されてからおよそ20-30分後です。子宮内容物の娩出後は、触診などを行なって子宮に残留物がないか確認します。
その後、会陰裂傷・会陰切開がある場合は縫合を行い、脈拍や血圧を測定し、分娩台の上で経過観察を行った後に病室に移動します。
産褥期
分娩第3期が完了すると、子宮の収縮と回復(子宮復古)が進行し、母体に付いた傷や妊娠機能は徐々に妊娠前の状態に戻ります。ここから、産後6-8週間を「
異常分娩とは
異常分娩とは、正常分娩に当たらない分娩のことで、母体や胎児に何らかの問題が起こった場合に医療介助を必要とする分娩を言います。
つまり、正産期以外の時期に出産を行うこと、帝王切開を行うこと、陣痛促進剤や陣痛抑制剤などの薬剤を使うこと、分娩の際に吸引器を用いた吸引分娩、鉗子を用いた鉗子分娩を行うことが異常分娩とされています。
異常分娩に至るためには、以下の3つを総合的に医師が判断する必要があります。
産道異常
母体の産道(子宮下部、子宮頸管、膣、骨盤など)が小さく狭い「
また、分娩前に母体の産道各部位の筋肉や靭帯は柔らかくなり、頚管熟化が起こるため開きやすくなるのですが、産道が広がらない「
その他、妊娠中に妊婦が太りすぎることで脂肪が産道を圧迫してしまい、胎児が通りにくくなることもあります。
胎児異常
胎児の頭が母体の骨盤よりも大きい、または小さすぎるため分娩が困難になる場合があります。これを「
胎児異常によって児頭骨盤不均衡になるのは、胎児の発育が良い巨大児だけではなく、「
また、胎児は産道を通るときに身体の向きを変えて回旋しながら娩出されますが、その際に「回旋異常」が起こった場合も異常分娩だと判断されます。
娩出力異常
子宮の収縮が弱い場合や、胎児の大きさに合わせて子宮外に押し出す娩出力が足りない状態を「
この微弱陣痛によって娩出力が弱く、分娩が長引く恐れがあることを異常分娩と判断する場合があります。
ちなみに、初産婦で分娩全体に30時間以上、経産婦で15時間以上の時間を要することを「
反対に陣痛の間隔が短すぎたり、陣痛が強すぎて子宮破裂や頸管裂傷を起こす恐れがあることを「
異常分娩が認められる病気・症状
分娩時に母体や胎児の異常で自然分娩を行えない場合は、医師の判断で医療器具や薬剤を使って母体と胎児の生存を心掛けた分娩方法がとられます。
たとえば、早産や過期産も異常分娩に分類されますが、その他の異常分娩とされる症状や状態としては以下が考えられます。
母体の異常
・子宮破裂
・頚管裂傷
・子宮内反症
・分娩時異常出血
・羊水塞栓症
・微弱陣痛・過強陣痛
・前期破水
など
胎盤の異常
・前置胎盤
・常位胎盤早期剥離
・癒着胎盤
・臍帯異常
など
胎児の異常
・多胎分娩
・胎児機能不全
・児頭骨盤不均衡
など
正常分娩と異常分娩の割合
正常分娩と異常分娩の明確な割合を示す統計は見つからなかったため、存在する数値から考えてみます。
まず、厚生労働省が平成22年度に行った「出生に関する統計」から、正期産児の割合を確認します。ただし、復産(双子、三つ子など)は考慮しないものとします。
- 早産児|4.7%
- 正期産児|94.9%
- 過期産児|0.4%
次にリクルートマーケティングパートナーズが0-2歳の子供を持つ20-49歳の既婚女性2303人を対象に行った調査から、自然分娩の割合を確認すると76.3%となっています。
出産・育児に関する実態調査2016|リクルートマーケティングパートナーズ
正確な数値ではありませんが、これら2つの数値から「94.9%×76.3%=72.4%」となるため正常分娩の割合は72.4%、異常分娩の割合は27.6%になります。
厚生労働省の統計情報によると一般病院の分娩46,451件中11,543件(24.8%)、一般診療所の分娩38,765件中5,254件(13.6%)、合わせて85,216件中16,797件(19.7%)が帝王切開の分娩です。
つまり異常分娩のうち71.4%が帝王切開だということもわかります。
正常分娩と異常分娩の違い
正常分娩、異常分娩という分け方を聞くと、異常分娩は名前から嫌な気がしますね。
ただ異常分娩は母体や胎児に異常があるかどうかは関係なく、分娩時に母体や胎児に何らかのリスクがあるかどうか、医療介入が必要かどうかで分類されるものです。
あくまでも分娩の様態を分類したもので、異常分娩で必ずしも子供や母親に障害などのリスクがあるわけじゃありません。
世の中には異常分娩で産まれた赤ちゃんが大勢いますし、医療技術が発達することで分娩時の医療介助は今後ますます増えることが考えられます。
そのため正常・異常という言葉にあまり左右されないようにしましょう。分娩方法は他にもいろんな種類があります。以下を参考にしてください。