戸籍法では妊娠が中絶した際に、胎児が「死産」なら「
- 中絶|妊娠が出産に至らずに「胎児の死」で終わること
- 人工妊娠中絶|妊娠22週未満の胎児を、手術によって母体外に排出すること
- 自然妊娠中絶|胎児が胎内で自然死して流産、または死産に至ること
死産届を提出しないと「火葬許可証」が発行されないので、遺体を火葬で弔えません。
人が亡くなった場合も同じく「死亡届」に必要事項を記入して、医師からもらった「死亡診断書」といっしょに自治体に提出することで「火葬許可証」が発行されます。
では、ここで言う死産とはどんな状態のことでしょう。死産と流産はどう違うんでしょうか。実は厚生労働省と日本産科婦人科学会は「死産」と「流産」の定義が違います。
今回は死産と流産の違い、死産届提出に必要な書類、死産後の火葬の手続きなどについてお話します。
目次
死産と流産の違いは?
まーさ
日本産科婦人科学会の死産と流産の定義
日本産科婦人科学会では、妊娠22週未満(妊娠21週6日以内)の胎児が
流産の中でも妊娠12週未満を「初期流産」と呼び、妊娠12週-妊娠22週未満を「後期流産」と呼びます。
また妊娠22週以降の死児の出産を「死産(子宮内胎児死亡|IUFD)」と定義しています。死児とは、出産後に心臓拍動、随意筋の運動、呼吸のいずれも認められない状態のことです。
妊娠22週未満までを流産、それ以降を死産と区別する理由は、妊娠22週以降の胎児なら母体から出されても未熟児医療で生存できる可能性があるためです。
つまり死産は人として死を迎えた意味で、妊娠22週が1つの区切りに設定されています。
厚生労働省の死産と流産の定義
厚生労働省の人口動態調査には「流産」の項目がありません。そのため、厚生労働省は流産の定義をしていないことになります。
一方「死産」の項目はあり、妊娠12週以降の死児の出産を「死産」と定義しています。死産届は戸籍法なので、妊娠12週以降の死児の出産で提出する書類です。
死産届はどうやって提出する?
まーさ
死産届の提出期限と提出先
妊娠12週以降の死児の出産は戸籍法上の死産なので、その日から7日以内に以下の場所に死産届を提出しなければいけません。
- 届出人(親・同居人、医師・助産師など)の住民票がある自治体窓口
- 死産した病院などがある自治体窓口
7日目が自治体の休日にあたる場合は、休日の次の日が提出期限です。また提出期限を過ぎると理由書が必要になり、5万円以下の罰金(過料)が科される場合があります。
日数は違いますが、提出期限の遅延に対する考え方は出生届と同様です。
すでに胎児認知している場合は、認知の届出先(認知によって住所が変わる場所)にも14日以内に死産届を出さなければいけません。
ちなみに死産だと出生届は提出しないので、戸籍には何も記載されず記録は残りません。
死産届の手続きと必要書類
自治体に死産届を提出する際は、以下の一式が必要です。忘れずに確認してください。
- 死産届(死産証書と一体の用紙)
- 死胎火葬許可申請書
- 届出人の印鑑
- 身分証明書
死産届に記載する世帯主がわからなければ、住民票を取得して確認してください。印鑑は認め印で問題ありません(シャチハタはNG)。
死胎火葬許可申請書には火葬場記入欄がありますが、これは申請前に火葬場に連絡して決めます。火葬場がよくわからなければ、自治体に問い合わせてください。
一式を揃えて死産届を提出すると、その場で内容確認があり埋葬(火葬)の許可審査があります。そのため、夜間や休日に提出した場合はもう一度自治体に出向く必要があります。
届出人は死産届記入者ではなく代理人で構いませんが、届出人以外は訂正ができません。
死産届の書き方
まーさ
死産届の正しい書き方を以下の春日部市のサンプルを使ってお話します。
死産届|春日部市
死産届には死産した子の名前を書く欄はありません。母親(父親)が記載する死産届と医師が書く死産証書(死胎検案書)で、子が死産したことを国が認識するための手続きです。
また死産届に名前がないので、死産した子は母親(父親)の戸籍には記載されません。
届出日など
届出日には、死産届を自治体の戸籍課に届出をする日付を記入します。赤ちゃんを死産をした日ではありません。「受付」の欄には何も記載する必要はないです。
父母の婚姻直前の本籍
婚姻関係を結ぶと夫婦の本籍は同じになるので、以前の本籍(多くは両親の戸籍)を都道府県名で記載します。婚姻関係がない場合は、それぞれの現在の本籍を記載します。
父、母とありますが、死産した子の父と母という立場は婚姻関係があるかどうかは関係ありません。
嫡出子か否か
死産した子の性別(わからない場合は不詳)、また嫡出子か否かにチェックをします。
嫡出子とは婚姻関係がある相手との間に生まれた子供のことで、嫡出でない子(非嫡出子)は婚姻関係がない相手との間に生まれた子供のことです。
嫡出子と非嫡出子の詳細は以下を参考にしてください。
死産があった日時場所
死産があった日時は、医師か助産師からもらう「死産証書(死胎検案書)」に記載されています。死産証書に記載された日時通りに記載してください。
同じく死産があった場所も死産証書に記載されています。
死産があったときの母の住所
死産した子の母親が住民登録をしている住所を記載します。わからなければ、地方自治体で住民票を取得してください。
死産があったときの世帯の主な仕事
死産があったときの世帯の主な仕事とは、婚姻関係があり夫婦が同居していれば夫(父親)の仕事が該当します。母親だけが仕事をしている場合または未婚の場合は、母親の仕事を以下の6つから選びます。
6つの項目を要約すると以下のようになるので、該当するもの1つを選んでチェックしてください。
- 1.農家、兼業農家
- 2.個人事業主
- 3.会社員で勤務先の従業員数が99人以下
- 4.会社員で勤務先の従業員数が100人以上、公務員、役員など
- 5.契約社員、アルバイトなど
- 6.無職
「父の職業」「母の職業」欄ですが、国勢調査のある年(5年毎)の4月1日から翌年3月31日の間で出産した場合に記載します。次の国勢調査は2020年なので、2020年4月1日から2021年3月31日に出産した場合はこの欄を書いてください。
国勢調査に合わせた記載なので、以下の「職業例示表」の中から該当する職業を選んで記載すれば良いでしょう。
- 01 専門・技術職
- 02 管理職
- 03 事務職
- 04 販売職
- 05 サービス職
- 06 保安職
- 07 農林漁業職
- 08 運輸・通信職
- 09 生産工程・労務職
- 00 無職
たとえば以下に該当する場合は、父母の職業欄には「04」または「販売職」と書きます。リンク先のPDFを参考にしてください
商品販売従事者(小売店主・店長、卸売店主・店長、販売店員 等)、販売類似職業従事者(不動産仲介・売買人、保険代理・仲立人(ブローカー) 等)、営業職業従事者(食料品営業職業従事者、機械器具営業職業従事者、通信・システム営業職業従事者 等)
職業例示表|厚生労働省
この母の出産した子の数
出生子、妊娠満22週以後の死産児、妊娠満21週以前の死産児又は流産死胎をすべて記載します。
出生子
妊娠満22週以後の死産児
妊娠満22週以後の死産児の欄には、今回の死産を含めたこれまでの妊娠満22週以後の死産児の数を記載します。
妊娠満21週以前の死産児又は流産死胎
妊娠満21週以前の死産児又は流産死胎の欄には、今回の死産を含めたこれまでの妊娠満12週以後-満21週以前の死産児及び流産死胎の合わせた数を記載します(死胎とはおなかの中で脂肪した子のこと)。
届出人
届出人とは、死産届を記載した人のことを言います。
通常は子の父親か母親が書きますが、父親がおらず、母親の体調がすぐれない場合は、同居者や医師、助産師、後見人などが届出人となって死産届を記載します。
もちろん、印鑑はシャチハタではいけません。
連絡先
届出人に連絡がつく連絡先を記載します。死産届は死産日から7日以内に提出して受理されなければいけません。
記入に不備があったなどの場合は自治体から連絡が入るため、連絡がつきやすい電話番号を書いておいてください。
死産と死産届の注意点
まーさ
死産証書(死胎検案書)ってどういう書類?
死産証書(死胎検案書)は死産届と左右で対になっていて、死産に立ち会った医師や助産師に書いてもらう書類です。
書類は医師(助産師)が用意し、右側の死産証書を書いてもらってから、左側の死産届を父親(母親)が書いて自治体に提出します。
死産証書と死胎検案書って何が違う?
死産証書と死胎検案書は、どちらも妊娠12週以降の死産の際に医師または助産師が作成する書類でですが、同じものではありません。
死産証書は医師または助産師が死産に立ち会った場合に作成し、死胎検案書は医師または助産師が死産に立ち会っていない場合に作成します。
出産と死産に関する死産証書、死胎検案書、出生証明書は医師、助産師のどちらも作成できます。
火葬場の手配と火葬にかかる費用は?
死胎火葬許可申請書には火葬場の記入欄があるので、事前に火葬場の手配が必要です。
火葬場の手配は民営火葬場を葬儀代行会社に任せるか、自治体経由で公営火葬場に問い合わせてもらうか、民営または公営の火葬場に自分で問い合わせます。
公営の火葬場の火葬費用は2000-3000円、棺や骨壷で2-3万円、後は供養で変わります。ただ公営火葬場は自治体ルールがあるので、順番が遅くなったり、少しだけ料金が高くなることもあります。
また葬儀代行会社を使うと上記に加えて役所の手続き、火葬の手配などを任せて4-10万円かかります(会社によって違う)。
出産育児一時金の対象になる?
死産届を提出するということは、妊娠週数が12週(12週0日)以降の出産をしているので出産育児一時金の対象になります。
出産育児一時金とは、赤ちゃんを出産1人につき42万円(40.4万円)が健保・国保から支給される制度のことです。詳細は以下を参考にしてください。
もちろん妊娠の結果が死産でも、条件を満たしていれば出産育児一時金を受け取ることは正当な権利です。
ただ一部の心ない人の中には、出産育児一時金目当てでわざと妊娠12週0日以降に人工中絶をするそうです。
出産後すぐに赤ちゃんが死亡した場合
では出産したにもかかわらず、すぐに赤ちゃんが死亡した場合はどうなるでしょうか。
一度産まれた赤ちゃんは、出産が原因で直後に死亡しても死産にはなりません。「産まれた赤ちゃんが死亡した」ため、出生届と死亡届をいっしょに自治体窓口に提出します。
もちろん赤ちゃんは戸籍に記載され、今後同姓の子を出産した場合は次男(次女)が誕生したことになります。
死産と流産の違いは、赤ちゃんの身体上または法律による便宜的な処理の必要性上、区別する必要があります。では親の心情にも死産と流産の区別はあるんでしょうか。
わたしは死産は経験してないのでわかりませんが、死産を経験した女性の中には「流産よりも死産の方が悲しい。」と考える人がいるかもしれません。
ただ悲しい感情は人それぞれなので、死産と流産の悲しさに順番を付けることは難しいことですね。
流産した胎児が人間的な機能が揃ってなくても、順調に産まれていれば今ごろいっしょにご飯を食べたり、お散歩していたかもしれないと考えると流産も同じように悲しいことだと思います。
最後に、死産と流産の定義をまとめます。
- 流産|妊娠22週未満の胎児が娩出されること
- 初期流産|妊娠12週未満の流産
- 後期流産|妊娠12週-妊娠22週未満の流産
- 死産|妊娠22週以降の死児の出産