まーさ
はちみつは美容や健康に良い効能があり、テレビや雑誌でもよく取り上げられます。砂糖の代わりにはちみつを使う料理も多く、健康食品のイメージを持つ人もたくさんいます。
2017年4月までは、クックパッドにはちみつを使った離乳食レシピが多数ありました。ところが現在はゼロです。というのも、はちみつで赤ちゃんの死亡事故が起きたからです。
離乳食にはちみつで男児死亡 「クックパッド」のレシピをめぐり物議(BuzzFeed Japan) – Yahoo!ニュース
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そういうわけじゃなく、はちみつが禁忌なんです。他にも赤ちゃんに食べさせて良いもの・食べさせてはいけないもの、そしてその理由についてお話しますね。
目次
はちみつによる赤ちゃんの死亡事故のあらまし
まーさ
2017年3月に生後5ヶ月の男の子が、はちみつが原因で死亡する事故が起こりました。
男の子は発症1ヶ月前から市販のジュースにはちみつを混ぜたものを飲んでいて、2月16日からせきや鼻水の症状が出ていました。せきや鼻水なら「風邪かな?」と考えてもおかしくないですね。
ところが2月20日に痙攣や呼吸不全の症状が出て、その後3月30日に亡くなっています。
検査の結果、男の子の便や開封したはちみつからボツリヌス菌が検出されたため、足立区の保健所は死亡原因は「乳児ボツリヌス症」と断定しています。
乳児ボツリヌス症とは
乳児ボツリヌス症とは、はちみつに付着したボツリヌス菌の芽胞が赤ちゃんの腸内に感染し、発芽・増殖して毒素を発生して症状を起こす病気のことです。
ボツリヌス菌の特徴
ボツリヌス菌は土壌や海、湖、川などの泥砂に存在する身近な菌で、低酸素状態になると発芽・増殖して毒素を発生します。しかもこの毒素は、自然界で最強だそうです。
ボツリヌス菌は熱や乾燥に強く、120℃で4分以上あるいは100℃で6時間以上の加熱をしなければ完全に死滅しません。
乳児ボツリヌス症の症状
ボツリヌス菌の潜伏期間は3日-30日ほどで、発症までに個人差があります。乳児ボツリヌス症の症状は神経麻痺で、全身の筋力低下が現れます。
まずボツリヌス菌が腸管内で発芽して毒素が産生されると初期症状は便秘、哺乳力の低下など腸や消化器官の症状、活気の低下、泣き声が弱いなども見られます。
乳児ボツリヌス症が進行すると首のすわりが悪くなる、よだれが多い、眼球運動の麻痺など、重症になると呼吸筋の麻痺で呼吸が阻害されて死亡するケースがあります。
ボツリヌス食中毒とは
ボツリヌス菌は「ボツリヌス食中毒」を発症する可能性もあります。これは大人もかかる食中毒の1種で、腸管内での芽胞ではなくボツリヌス菌の毒素を取り込んで発症します。
潜伏期間は8-36時間で嘔吐、視力障害、言語障害、嚥下障害などの神経症状が現れます。
はちみつ入りのおかし・飲料もNG
まーさ
市販のはちみつは加熱処理が不十分で、芽胞に汚染されている可能性があります。はちみつが含まれるお菓子や飲料、保存食品も同様で、1歳までは与えない方が良いです。
自家製の缶詰・瓶詰、保存食品も注意
ボツリヌス菌は嫌気性菌なので、自家製の缶詰・瓶詰食品やパックの保存食品でも繁殖します。
ボツリヌス菌以外の菌も増殖して食中毒の原因になるので、保存方法や調理方法のルールを守るなど注意が必要です。
乳児ボツリヌス症を予防するには?
東京福祉保健局では、乳児ボツリヌス症・ボツリヌス食中毒の予防として以下の注意を呼びかけています。
- 容器包装詰加圧加熱殺菌食品(レトルトパウチ食品)や大部分の缶詰は、 120℃4分間以上の加熱が行われているので、常温保存可能ですが、これとまぎらわしい形態の食品も流通しています。「食品を気密性のある容器に入れ、 密封した後、加圧加熱殺菌」という表示の無い食品、あるいは「要冷蔵」「10℃以下で保存してください」などの表示のある場合は、必ず冷蔵保存して 期限内に消費してください。
- 真空パックや缶詰が膨張していたり、食品に異臭(酪酸臭)があるときには絶対に食べないでください。
- ボツリヌス菌は熱に強い芽胞を作るため、120℃で4分間(あるいは100℃6時間)以上の加熱をしなければ完全に死滅しません。そのため、 家庭で缶詰、真空パック、びん詰、「いずし」などをつくる場合には、原材料を十分に洗浄し、加熱殺菌の温度や保存の方法に十分注意しないと危険です。 保存は、3℃未満で冷蔵又はマイナス18℃以下で冷凍しましょう。
- 食中毒症状の直接の原因であるボツリヌス毒素は、80℃30分間(100℃なら数分以上)の加熱で失活するので、食べる直前に十分に加熱すると効果的です。
- 乳児ボツリヌス症の予防のため、1歳未満の乳児には、ボツリヌス菌の芽胞に汚染される可能性のある食品(蜂蜜等)を食べさせるのは避けてください。
ポイントを抜き出すと以下の通りです。
- ボツリヌス菌は120℃で4分間(or100℃で6時間)以上加熱しないと完全に死滅しない
- 十分な加熱処理をしていると明確に記載がない商品は使わない
- 保存は3℃未満で冷蔵またはマイナス18℃以下で冷凍保存する
- 1歳未満の子にははちみつは与えない
メープルシロップのボツリヌス菌のリスクは?
まーさ
ボツリヌス菌のリスクを話すと、はちみつ以外の甘味も心配になりますよね。まずはよく似たものとしてメープルシロップがあります。
メープルシロップ(maple syrup)はサトウカエデの樹液を煮詰めて作る甘味料で、カナダのケベック州が市場の約8割を生産しています。
メープルシロップは「ショ糖」、はちみつは「ショ糖」と「果糖」から成ります。果糖はショ糖の1.3倍甘く感じるため、メープルシロップよりもはちみつの方が甘味を感じます。
メープルシロップはカルシウム・マグネシウム・カリウムなどのミネラル類を多く含み、はちみつはビタミンB1・B2・B6・ビタミンC・葉酸などのビタミン類を多く含みます。
1-0203 砂糖類(正誤表12反映1227)|第2章 日本食品標準成分表 PDF(日本語版) 文部科学省
ボツリヌス菌の有無
メープルシロップはサトウカエデの樹液を10時間以上煮詰めて採取するので、十分な加熱殺菌処理をしています(煮詰めて作るため40リットルの樹液から1リットルしか採取できない)。そのため、ボツリヌス菌の心配はありません。
ボツリヌス菌は120℃で4分以上、あるいは100℃で6時間以上の加熱で完全に死滅します。
メープルシロップは離乳食に使える!
というわけで、メープルシロップは離乳食に使えます。たとえば、はちみつの代用としてヨーグルトにメープルシロップを混ぜたり、離乳食レシピに加えても良いですね。
与える時期はいつごろ?
メープルシロップを赤ちゃんに与える目安は、離乳食後期(生後10ヶ月過ぎ)ですが、稀に食物アレルギーが起こる子もいるので、最初は少量から与えてください。
与える量はどれくらい?
1日の上限摂取量の目安は、離乳初期で1g未満(小さじ1/3程度)、離乳中期で2g(小さじ2/3杯)、離乳後期で3g(小さじ1杯)、離乳完了期で4g(小さじ1と1/3杯)、1歳で10g(大さじ1杯)、2-4歳で15g(大さじ1と2/3杯)ほどです。
上記はあくまで上限摂取量の目安なので、なるべく少ない量に抑えましょう。
使えるメープルシロップは?
サトウカエデは希少でカナダ南東部など一部のみに原生しているので、メープルシロップと呼べる商品はサトウカエデの樹液100%のもののみです。
メープルシロップ風味に加工された商品もありますが、それは別の甘味料や香料が含まれるので赤ちゃんに与えないでください。
メープルシロップのデメリットは?
メープルシロップは自然で安全性も高い甘味料ですが、デメリットもあります。
- 甘味が強いため味覚形成に影響を与える
- ショ糖類のため虫歯になりやすい
- 水分量が多いため早く傷みやすい
メープルシロップは生後10ヶ月には食べられますが、甘味が強いため赤ちゃんの味覚形成に影響を与えます。また主成分がショ糖なので虫歯の心配もあります。
そのため使うのは少量で、食べた後はお口のケアをしてください。
またメープルシロップは水分が多いので、カビが生えたり傷みやすい特徴があります。開封前は常温保存、開封後は蓋を閉めて冷蔵保存してください。冷凍保存がベストですね。
FAQ メープルシロップ|ケベック・メープルシロップ生産者協会
その他の糖類・甘味料のボツリヌス菌リスクは?
まーさ
メープルシロップにボツリヌス菌が含まれないことはわかりましたが、それ以外の糖類・甘味料にボツリヌス菌の心配はないんでしょうか。
黒糖、きび砂糖、コーンシロップ
残念ながら黒糖、きび砂糖、コーンシロップにもボツリヌス菌が潜んでいる可能性があります。
正しい方法で加熱殺菌されていれば安全ですが、食品やパッケージを見ただけでは分かりません。そのためよく分からないときは、乳児に食べさせない方が安全です。
知って予防しよう!乳児ボツリヌス症 | あおい小児科院内勉強会 | 当院のこだわり | あおい小児科
ちなみに、日新製糖のきび砂糖はサイト上で以下のように安全性の説明をしています。
ボツリヌス菌は、土壌、河川あるいは海洋に広く存在していますが、低酸素状態に置かれると菌が増殖することにより、毒素が発生すると言われています。ただし、このボツリヌス菌は、一定以上の高温で一定時間以上加熱(例えば“120℃4分以上”加熱)されると死滅します。きび砂糖とプレミアムきび砂糖の製造工程には、加熱処理工程(“120℃4分以上”に相当する加熱)がありますので、万一、ボツリヌス菌が原料に潜んでいたとしても、確実に菌は死滅し、ボツリヌス毒素についても完全に無毒化されます。また、これら製品の検査を定期的に行っておりますが、これまでボツリヌス菌を検出したことはありません。
水あめ
一方、水あめはじゃがいもやとうもろこしのデンプンから作られた甘味料なので、メープルシロップのように離乳食後期から赤ちゃんに与えることができます。
水あめもなるべく少量を使うようにして、食べさせた後は虫歯のケアを怠らないようにしてください。
はちみつの危険性の指摘は30年以上前から
赤ちゃんがはちみつを摂取する危険性は、最近になって叫ばれるようになったことではありません。
内閣府は、1987年10月に各都道府県に対して、1歳未満の乳児にはちみつを与えないように指導した「乳児ボツリヌス症の予防対策について」という通知を出しています。
個人的には「赤ちゃんにはちみつはダメ!」は常識の部類に入ると思ってましたが、今回の事故が起こったことで認識していない人も多いことを知りました。
乳児(とくに生後3週間-6ヶ月ごろ)は消化器官が未熟なので、乳児ボツリヌス症を発症する恐れがあることを認識しておきましょう。
ちなみに授乳中のママがはちみつを摂取して、乳児ボツリヌス症が発症した実例は出ていません。
乳児ボツリヌス症はハチミツだけが原因ではない?|はちみつマイスター / Honey Meister