「産休切り」「育休切り」という言葉を聞いたことはありますか。
働く女性が妊娠したことによる産休・育休を機に、会社から突然「いっそのこと辞めても良いよ。」と言われてしまう産休切り・育休切りが問題になっています。
企業コンプライアンス的に極端に差別的な発言や態度は減ってるのかもしれませんが、妊婦が会社からマタハラを受けたと感じることはまだまだ多いです。
- 正社員で働くママが育休を取ろうとしたら契約社員に変えられたとか……。
- 子供が1歳まで育休を取ろうとしたら暗に減給をにおわされたとか……。
- 産休・育休の会社への申請期限を明確に教えてもらえなかったとか……。
- 長期の育休を取得したら育休切りにあってしまったとかとかとか……
このような状況でも働きたい女性はいろいろな条件を飲むしかなく、泣き寝入り状態の職場があるという話を何度も聞きます。
ではもし産休・育休の取得で解雇や退職の強要など不当な扱いをされた場合、どこに相談すればいいんでしょうか。
今回は女性が産休切り・育休切りをされたと感じた場合の対応と相談相手・相談方法についてお話します。
目次
産休切り・育休切りとは
まーさ
産休切り・育休切りとは、妊娠・出産に伴う産休・育休の取得を機に会社が労働者を解雇したり、上司が社員に退職を強要したり、暗に退職を促すなどの行為のことです。
また妊娠を会社に報告した後に降格や異動、雇用形態の変更をさせられるなど、間接的に退職につながる不当な扱いやマタハラも産休切り・育休切りの一部になります。
とくに育休に関するマタハラは多く、被害者も会社の意向や社内の空気を察知して働く意欲がなくなり、育休後に自主退職をする流れは未だに多いですね。
「改正男女雇用機会均等法」及び「改正育児・介護休業法」に照らすと、妊娠・出産にかかる労働者に対する不利益取扱いをした会社は法律違反です。
妊娠・出産・育休に係る不利益取扱いの相談件数
以下を見てわかる通り、不利益取扱いの相談件数も年々増えています。
- 平成16年度|521件
- 平成17年度|612件
- 平成18年度|722件
- 平成19年度|882件
- 平成20年度|1,107件
- 平成16年度|875件
- 平成17年度|903件
- 平成18年度|1,166件
- 平成19年度|1,711件
- 平成20年度|1,806件
平成21年3月には厚生労働省から「現下の雇用労働情勢を踏まえた妊娠・出産、産前産後休業及び育児休業等の取得等を理由とする解雇その他不利益取扱い事案への厳正な対応等について」というが通達がされています。
産休切り・育休切りなどの法律違反をした会社が厚生労働省の是正勧告に従わない場合は、社名を公表するなどの措置を行うことが決定しています。
産休切り・育休切りの割合
まーさ
実態は明らかになってないので明確な件数や割合はわかりませんが、マタハラを受けた女性の中から解雇や雇い止め、退職の強要に至った割合を見てみましょう。
妊娠などで不利益な扱いを受けた女性の割合
平成27年の厚生労働省の調査によると、妊娠などを理由として会社から不利益な扱いを受けた経験を持つ女性は正社員で21.8%、派遣社員では48.7%にのぼります。
- 正社員|21.8%
- 契約社員|13.3%
- パートタイマー|5.8%
- 派遣労働者|48.7%
育休切りなどの被害を経験した割合
さらに「解雇」20.5%、「雇い止め」21.3%、「退職強要など」15.9%、直接的な産休切りや育休切りの被害経験者はそれぞれ2割前後います。
また「迷惑・辞めたら?などの発言」による間接的な産休切りや育休切りの被害者は47.3%にものぼります。
つまり正社員の5人に1人、派遣社員の2人に1人がマタハラを受け、それらの半数が産休切り・育休切り被害にあっているということです。
産休切り・育休切りの対応や相談先
まーさ
まずは各都道府県労働局、全国の労働基準監督署内にある総合労働相談窓口に行きましょう。そして、会社から受けた不当な扱いについて相談をします。
ただし産休切りと育休切りでは少し話が変わる場合があります。
産休切りの対応
産休の取得申請に対して退職強要があった場合は、会社に労働基準監督署の指導が入ります。そのためどんな理由でも(会社の倒産、災害を除く)、産休自体は取得できます。
また産休を理由にした解雇があった場合は、労働基準法第19条違反で解雇は無効になり、会社は6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が課せられます。
育休切りの対応
育休を理由にした解雇があった場合も、解雇を無効にできます。これは「不利益取扱いの禁止」として育児・介護休業法第10条などに定められています。
ただし会社の業績不振や労働者の勤務態度の悪さ(証拠が必要)などを会社が主張した場合は、やむを得ない解雇理由と扱われることもあるため注意が必要です。
これは育休切りだけじゃなく、産休中の解雇以外のどんな解雇でも同じことが言えます。
労働基準監督署への相談方法と準備
まーさ
産休切り・育休切り被害者が労働基準監督署に相談する場合は、現在の状況を正しく伝えるために事実関係が分かる資料や情報を準備していくと良いでしょう。
会社の対応に対する情報の準備
会社は、いつでも誰でも自由に解雇できるわけじゃありません。解雇に合理的な理由がなく、社会通念上妥当だと認められない場合は、解雇は無効になります。
そのため解雇や退職の強要を受けた場合は、以下の「整理解雇の四要件」に基づいたものか判断してください。
- 経営上の必要性
労働者を解雇しなければいけない経営上の必要性が客観的に認められること - 解雇回避の努力
希望退職者の募集、賃金引き下げなど、解雇前に会社が努力をしていると認められること - 人選の合理性
解雇対象者の勤続年数や業務実績など、選定基準が合理的だと客観的に認められること - 労使間での協議
解雇の必要性や時期、方法、人選基準などが労働者側と協議され、納得を得るための努力をしていると認められること
解雇予告通知書の準備
会社が発行した「解雇予告通知書」は、労働基準監督署の相談に持っていきましょう。
解雇予告通知書が発行されていない場合は、会社に発行を求めてください。会社は、労働基準法第22条に基づいて、解雇理由を証明しなければいけません。
第22条
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
解雇通達時のメモの準備
解雇や退職の強要を言い渡されたときのことを覚えている場合は、双方でどのようなやり取りをしたかを日時とともにメモに残し、労働基準監督署に持っていきましょう。
メールで解雇を通達された場合や退職を示唆する文面が送られてきた場合も同様です。
育休切りなどのマタハラを防ぐことは難しい
いくらその会社や社内の風当たりが、妊婦に良くないものだとしても、会社の業績が良ければ突然の解雇や退職の強要はめったにありません。
つまり妊娠・出産した女性が育休切りなど退職の強要にあったときは、「育休切りではなく、経営不振が解雇理由だ。」という主張をする可能性が高いです。
また会社が育休を理由にした退職の強要を認めて撤回したとしても、一度会社と揉めると働きづらくなりますし、余程の理由がない限り心情的にも働く意欲をなくします。
不当な解雇による慰謝料は?
不当な解雇による慰謝料は、精神的被害を訴えることで50万円から100万円ほどが相場のようです。そのため民事での裁判を起こしても良いとは思います。
どちらにしてもトラブルを起こした会社は良い会社とは言えないので、まずは赤ちゃんのことを第一に考えてください。
そのうえで心情的に復職しても問題なければ復職+慰謝料請求、それ以外の人は民事裁判での慰謝料請求+育休後の退職でいいんじゃないかと思います。
ただ出産前後の女性にとって無駄なストレスがかかる行為は避けたいところ……なかなか難しい問題です。