まーさ
「はーい、元気な男の子ですよー。」と分娩台に寝ているママの上に赤ちゃんをうつ伏せに寝かせて、その様子を愛おしそうに見ている……。
そんなカンガルーケアに憧れる女性は多いと思います。わたしは帝王切開で出産したので、できればやりたかったなぁという気持ちがあります。
ただカンガルーケアの効果やリスクを理解してる人は少ないです。カンガルーケアは、単純に出産直後の赤ちゃんを抱っこして幸せを味わうだけの行為じゃありません。
- カンガルーケアって何のためにするものなの?
- カンガルーケアの正しいやり方ってあるのかな。
- カンガルーケアは危険って聞いたんだけどほんと?
カンガルーケアに憧れる人は多いと思いますが、まずはこの記事を読んでカンガルーケアがなぜ誕生したのかその意味を知りましょう。
カンガルーケアの効果とリスクを理解したら、あなたの出産で本当にカンガルーケアをした方が良いのか判断してください。
目次
カンガルーケアとは
まーさ
カンガルーケア(Kangaroo care)とは、出産直後の新生児を母親の胸の上に密着させ、肌のぬくもりを感じたり、初めての授乳をする行為です。
カンガルーケアは、もともと未熟児治療を受ける赤ちゃんにのみ行うものでした。
そのため日本周産期・新生児医学会では、正期産児に対するカンガルーケアを「早期母子接触(early skin to skin contact)」という名前で分けています。
出生直後におこなう「カンガルーケア」について|日本産婦人科医会
カンガルーケアの由来
早産・低体重児の保育器が足りなかった1970年代のコロンビアでは、出産後の赤ちゃんと母親を密着させることで哺乳や保温を目的としたケアを行っていました。
赤ちゃんと母親が肌を密着させて包み込むケアの姿をカンガルーになぞらえ、カンガルーケアと呼ばれるようになりました。
カンガルーケアの実施率
「分娩室・新生児室における母子の安全性についての全国調査(こども未来財団|2010年)」によると、早期母子接触(カンガルーケア)を行う施設は65.4%です。
ただしこれは施設の割合で、実施率ではありません。実施率はもっと低くなります。
カンガルーケアを行う時間
早期母子接触(カンガルーケア)の時間は病院によって違い、10分以内が28.5%、15-30分が27.7%、40-60分間が19.7%、90分以上が19.9%という割合です。
カンガルーケア、早期母子接触の効果
まーさ
カンガルーケアには以下の効果が期待されています。
- 皮膚接触によって新生児の体温が維持される
- 皮膚接触によって呼吸が安定し、体重増加を促進する
- 母乳の分泌が増し、母乳哺育の期間が長くなる
- 出産直後の密着によって、母子の愛着形成が促進する
- 新生児に母親のぬくもりを体感させて安心感を与える
- 未熟児出産をした母親の喪失感を軽減する
- 母親が新生児に触れることで親の自覚を感じる
Whitelaw A, Sleath K: Lancet 1985
カンガルーケアの由来で話したとおり、カンガルーケアには未熟児医療が十分に行えないときに、保温や呼吸維持などによる延命効果が期待できます。
そのためカンガルーケアは未熟児医療に必要な行為で、正期産児には必要ありません。もっと言うと、十分な未熟児医療ができる環境では必要がないものです。
ただ、正期産時のカンガルーケアでも母子の愛着形成や親の自覚を促すなどの効果は期待できます。
カンガルーケアのやり方
まーさ
カンガルーケアは、新生児のケアなど一通りの確認が終わった後に行います。新生児は体温低下が激しく体力もないため、医師の判断で可否や時間が決められます。
カンガルーケアを行う際は衣服の打ち合わせ部分を開いて、赤ちゃんをうつ伏せにして母親の胸に密着させます。
赤ちゃんの体にはタオルなどをかけて体温低下を防ぎ、赤ちゃんがおっぱいを求めれば授乳させます。
出生直後におこなう「カンガルーケア」について|日本産婦人科医会
全身状態が落ち着いた未熟児に対するカンガルーケア
全身状態がある程度落ち着いた未熟児には、母子同室のうえで24時間カンガルーケアを行うことが勧められます。
集中治療下の新生児に対する一時的なカンガルーケア
集中治療中の新生児に対するカンガルーケアは体温や呼吸状態を確認し、安全が確保された状態で短時間のカンガルーケアを行います。
正期産児の出産直後に行うカンガルーケア
健康な正期産児の場合、新生児モニタリングと医療スタッフの観察のもとで出産から30分以内にカンガルーケアを行い、1時間ほどの継続が望ましいとされます。
カンガルーケア(早期母子接触)の適応基準
- 本人が早期母子接触を希望している
- バイタルサインが安定している
- 疲労困憊していない
- 医師、助産師が不適切と認めていない
- 胎児機能不全がなかった
- 新生児仮死がない(1分・5分アプガースコアが8点以上)
- 正期産の新生児である
- 低出生体重児でない
- 医師、助産師が不適切と認めていない
カンガルーケア(早期母子接触)の中止基準
- 傾眠傾向にある
- 医師、助産師が不適切と判断する
- 呼吸障害(無呼吸、あえぎ呼吸を含む)がある
- SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)が90%未満となる
- ぐったりし活気に乏しい
- 睡眠状態となる
- 医師、助産師、看護師が不適切と判断する
カンガルーケアの事故やリスク
まーさ
カンガルーケアはリスクがあるという反対意見もあります。ただし多くの事故やリスクは、医療スタッフが目を離さない限り軽減できるものです。
新生児の落下事故
カンガルーケアは、赤ちゃんを出産したばかりで心身ともに疲れ切っている母親に預ける行為です。そのため、赤ちゃんが母親から落下する危険性があります。
新生児の容態の急変
新生児は出産後のケアが大切です。とくに体温や呼吸の状態が急変するため、医療スタッフが常にカンガルーケアの状況を確認し、容態の変化に対応しなければいけません。
カンガルーケア中に心臓が止まり、心肺蘇生が必要なケースもあります。もしカンガルーケアで新生児が障害を負ったり、死亡してしまうと、母親の心的外傷の原因になります。
カンガルーケアを正しく理解しよう
まーさ
カンガルーケアは、もともと未熟児の回復や延命のために行われていたものです。近年は健康な正期産児でも愛着形成などの効果が期待されて実施が増えました。
ただし健康な正期産児でも医療スタッフが母子から目を離したり、安全を考慮しないカンガルーケア(早期母子接触)で事故が起きていることも事実です。
正期産時でも未熟児でも、カンガルーケアは親子の絆を深める行為です。安全に行える環境なら推奨されるものだと思います。
もしカンガルーケアを受けたい場合は、病院に聞いて安全を確かめてください。
カンガルーケアは出産のオプションでしかありません。もしカンガルーケアができなくてもすぐに赤ちゃんと触れ合えるので、気持ちを切り替えて良い出産を迎えましょう。
上記は「カンガルーケアしなきゃ!」「完母で育てなきゃ!」と考えている妊娠前・出産前の人に読んで欲しい本です。子供が元気で健やかに育つなら、過程は関係ないんです。